日本では一つの薬ができるまでには非常に長い時間が必要ですが、年々医薬品開発の成功率は低下している状況です。近年では、化合物スクリーニング(探索段階)から承認までの成功率は「2万2000分の1〜3万1000分の1」程度まで低下しています。
本記事では、新薬開発におけるプロセスごとの成功率やドロップ率が高い理由、創薬成功率の鍵などをまとめています。
ここでは、開発プロセスごとの成功率を紹介します。以下の表は、平均的な次フェーズ移行率となります。
| 平均的な移行率 | |
|---|---|
| Phase I→Phase II | 67% |
| Phase II→Phase III | 36% |
| Phase III→承認申請(Filed) | 55% |
| 承認申請→承認(Approved) | 94% |
※臨床試験開始から承認までの全体成功率は13%
上記の表から、Phase IIのドロップ率が高いことがわかります。この部分については、Phase II(少数の患者対象の試験)では、「動物実験(非臨床試験)で確認されていた薬効が、ヒトの病態環境で再現されなかった(=トランスレーショナル・ギャップ)」といった理由などが挙げられています。このように、各プロセスでさまざまな理由によりドロップにつながる理由があります。
1991年から2000年(さらに現在)にかけて、薬物動態(PK)における課題は、高精度バイオアナリシスなど高度なテクノロジーにより克服されていますが、現在も「有用性(Efficacy)」の壁は立ちはだかっており、ドロップにつながる原因となっています。
| ドロップ率 | ||
|---|---|---|
| 1991年 | 2000年 | |
| 有効性の不足(効き目が足りない) | 約30% | 約30%弱 (2000年時点で最大のドロップ原因) |
| 臨床段階での安全性懸念 | 約10% | 約10%強 |
| 毒性の問題 | 約10%強 | 約20% |
| 薬物動態/生体理学的利用能 | 約40%(最大のドロップ原因) | 約10%未満(大幅に改善) |
| 製剤化・処方の問題 | ほぼ0% | 約5% |
| 製造原価(売上原価)の高騰 | ほぼ0% | 約10%弱 |
| 商業的価値の低下(市場性の喪失) | 約5% | 約20%(大幅に増加) |
「有効性の不足(効き目が足りない)」とは、患者に対して期待した治療効果(優位差)が認められない状態で、この理由によるドロップ率は1991年から10年たってもドロップ率が改善していません。これは2000年の時点で最も大きなドロップ原因となっています。
「臨床段階での安全性懸念」とは、ヒト(健康成人や患者)に投与を行った場合に、許容できない有害事象が発生するという懸念からドロップしたものです。ドロップ率や1991年時点では約10%、2000年には約10%強の割合です。
「毒性の問題」は、主に非臨床段階(動物試験)で発覚するものです。例えば臓器への障害や遺伝毒性、がん原生など、生存や健康に対して重大なリスクを与えるといったことがドロップの原因となっています。この原因によるドロップ率は、1991年の時点では約10%でしたが、2000年の時点では約20%に増加しています。
「薬物動態 / 生体理学的利用能」は、薬を投与しても体内に十分に吸収されない・標的組織に届かないといった状況や、代謝や排泄が早すぎて効果が持続しないことをいいます。ドロップ率は1991年の時点で約40%となっており、この時点では最大のドロップ原因となっています。2000年になると約10%未満となっており、大幅に改善しています。
物質(原薬)としては優れていたとしても、「製剤化・処方の問題」によってドロップするケースもあります。これは、注射剤や錠剤などの「医薬品の形」として安定して加工・保存を行うことが難しい状態を指します。ドロップ率は、1991年時点ではほぼ0%となっていましたが、2000年には約5%となっています。
「製造原価(売上原価)の高騰」とは、その薬を製造する際のコスト(原材料費や製造工程の複雑さ)が高すぎて薬を製造しても市場に出した時に利益を確保できない、と判断されることをいいます。ドロップ率は、1991年時点ではほぼ0%でしたが、2000年時点では約10%弱です。
自社が新薬を発売するより先に競合他社が優れた新薬を発売するケースや、市場規模が想定よりも小さかったことから、巨額の投資を回収できないという経営判断がされたケースを指します。この原因については、ドロップ率が1991年の時点で約5%でしたが、2000年では約20%といったように、大幅に増加していMAす。
「有効性(Efficacy)」の壁が高く、「トランスレーショナル・ギャップ」の少ないデータを取得することが、創薬の施工確率を改善する、そして時間の短縮や損失の回避につながるといえます。
トランスレーショナル・ギャップが発生する原因としては、「動物モデルの限界」があるとされています。非臨床試験でどれだけ劇的な効果が見られたとしても、ヒトでその効果が再現されない背景としては、生物学・解剖学的な4つの決定的なギャップがあります。以下で、4つのギャップを解説していきます。
まず、「種差(Species Difference)による受容体・シグナル構造の乖離」といった部分があります。例えば動物では強力に作用した阻害薬だったとしても、ヒトの受容体にうまく適合せず臨床では十分な有効性が得られない、といったケースが挙げられます。
これはターゲットとなる受容体や、シグナル遺伝分子における分子構造が、ヒトと動物で数%異なるだけで、薬の結合親和性、いわゆる「効き目」に致命的差が生まれるためです。
2つ目のギャップとして、「薬物動態経路(ADME)の種差による活性代謝物の有無」が挙げられます。例えば、動物の体内で生じた「代謝物」が主となって薬効を示した場合では、その代謝物がヒトの体内ではほとんど生成されないため期待された有効性が全く発現しない、ということになります。
動物とヒトとでは、肝臓などの薬物代謝酵素(CYPなど)の活性や、代謝されるルートそのものが大きく異なるために、このようなギャップが発生します。
多くの動物モデルは、特定の餌や薬剤の投与、遺伝子操作によって「短期間で無理やり病態を誘導した」という単純なモデルです。そのため、「人工的に作られた急性・単純モデル」と「ヒトの慢性・複雑疾患」に乖離が生じます。
例えばヒトのMASHは、糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病を背景として、何十年もの長い時間をかけて「脂肪沈着」「炎症」「繊維化」といった形で進行していく複雑な慢性疾患です。単純に短い時間で脂肪をため込んだ単純なマウスモデルでは、ヒトの高度化に繊維化した組織への薬物の到達性や、長い期間にわたって発生する炎症シグナルを正確にシナリング(予見)できません。
試験で用いられている実験動物は、極めて清潔なSPF(特定病原体未感染)環境で無菌に近い状態で飼育されていることもあり、免疫系が非常に未成熟かつ均一な状態となっています。
さまざまな環境因子や常在菌にさらされており個体差が大きいヒト(実際の患者)と比較した場合、動物モデルは免疫応答がシンプルすぎるといえます。特にMASHのように免疫細胞により慢性的な炎症から繊維化が引き起こされる疾患では、「免疫系のリアリティ」の差があることがPhase IIでの有効性不足(ドロップアウト)につながる最も大きな原因となっています。
特に、Phase IIでのドロップアウトの発生を回避するには、非臨床の初期段階にて「いかにヒトの生体環境に近いデータを取得するか」がポイントとして挙げられます。創薬の成功率を上げるためには、非臨床試験を行う段階において「3つのアプローチ」について非臨床段階にて検証を行うことが大切であり、戦略的にCRO選定を行っていく必要があるといえます。
以下にて3つのチェックポイントをご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
「高度な病態モデルか」を確認することは、トランスレーショナル・ギャップの原因となる「人工モデルとヒトとの慢性疾患の乖離」を埋めるためのアプローチとなります。単純に脂肪が貯まるといった点や、一時的な炎症が起きるといったカタログ的なモデルではなく、ヒトの病態進行タイムラインや組織構造を忠実に再現できる、高度なモデル選定が欠かせません。
具体的なチェックポイントとしては以下の点が挙げられます。
ヒト細胞を用いた「3D組織モデル(オルガノイド・MPS)」を組み合わせているかの確認は、「種差(Species Difference)」によって発生するギャップを完全にゼロにするためのアプローチといえます。これまで用いられてきた2D細胞培養では不可能だった、「細胞同士の立体的な相互作用や微小環境の再現」を行うための技術が活用されています。
具体的なチェックポイントとしては以下の点が挙げられます。
こちらは、「標的組織・細胞に対する薬物到達性」を可視化するためのアプローチとなります。血中薬物濃度(従来のPK)を測定するだけでは、高度に変性や組織化している疾患組織に対し、奥深くまで薬が浸透しているかが判断できません。そのため、臨床において「効き目のムラ」について先回りして排除を行う技術が必要であるといえます。
具体的なチェックポイントは下記の点が挙げられます。
現在、医薬品開発における成功確率は2万〜3万分の1まで低下している状態です。そして、ドロップアウトの原因として、「有効性の不足」が半分以上を占める現代では、「価格が安い」「指示通りの試験をしてくれる」という基準のみでCRO選びをする時代は終わっているといえます。
重要なのは、自社の候補化合物のモダリティや、「慢性」「急性」「免疫関与」など対象となる疾患の特性に応じた高度なアプローチについて共に議論を行うことができ、試験デザインを最適化できるパートナーを選択することです。
新薬開発において、非臨床試験の質と効率は、臨床成功率やコスト、スピードに直結します。特に近年では、「ヒト外挿性の高いデータ」「国際申請に通用する信頼性」「創薬初期での的確な絞り込み」といったニーズが高まり、CRO(医薬品開発受託機関)選びにも戦略性が求められるようになりました。
本記事では、非臨床の目的ごとにおすすめの3社を厳選して紹介していきます。